月曜 14:45~18:00
木曜 16:30~18:00
金曜 18:00〜21:30?
芸術への愛があれば、人はどんな苦労も厭わない。
それがまず前提にある。この物語はそこから結論を導くと同時に、この前提が間違っていることも明らかにする。それは論理学における新たな発見となり、万里の長城よりも幾分古い歴史をもつ物語という分野においても偉業となるだろう。
ジョー・ララビーはオークの木の広がる中西部からやって来て、絵画の才能をみなぎらせていた。六歳の時、彼は町の給水塔とそのそばを慌てて通り過ぎる名士の絵を描いた。この作品は額縁に入れられ、ドラッグストアのショーウィンドウに飾られたが、その傍らには奇数の列をもつ珍しいトウモロコシが置かれていた。二〇歳の時、彼はニューヨークへと向かった、風になびかせたネクタイをしっかり結び、財布の紐もしっかり結んで。
ディリア・カラザーズは六オクターブの声域を操り、南部のマツの木の広がる村で将来を有望視されていたため、親戚たちは彼女が「北」へ行って「磨きをかける」のに十分なお金を、彼女の麦わら帽子に入れてやった。結局彼らは、彼女の至る結末を見ることはなかったのだが――とはいえ、それはこれからのお話。
ジョーとディリアが出会ったのはとあるアトリエで、そこには絵画や音楽を学ぶ多くの学生たちが集まり、明暗法、ワーグナー、音楽、レンブラントの作品、絵画、ワルトトイフェル、壁紙、ショパン、そしてウーロン茶などについて語り合っていた。
ジョーとディリアは一方が惚れたのか、お互い夢中になったのか、そこはご想像にお任せするが、間もなく結婚した――それは(上記の通り)、芸術への愛があれば、人はどんな苦労も厭わないからだった。
ララビー夫妻はあるアパートで家庭を築いた。そこは寂れた住居で――鍵盤の左端にあるラのシャープのように街から遠く離れた場所だった。けれども彼らは幸せだった。というのも、二人にはそれぞれの芸術があり、そしてお互いがいたからである。この恵まれた青年に贈る私からの助言――汝の持ちうる全てを売り、貧しき者に与えよ(1)――これはきっと、自らの芸術と自らのディリアとの日々の暮らしを守る砦としての言葉となるだろう。
アパートの住人たちなら、二人の暮らしこそが唯一にして真の幸福だという私の考えに賛成してくれるだろう。家庭が幸せならば、部屋が狭すぎることはない――鏡台を倒せばビリヤード台にできる。炉棚はトレーニングマシンになるし、書き物机は予備の寝具に、洗面台はアップライトピアノになる。四方の壁がもっと近付こうと言うのならそうしてやってもいい、なぜなら間にいるのは、君と君にとってのディリアなのだから。だがもし家庭がそうでないのなら、部屋は広く大きくするべきだ――西の金門海峡から帰宅し、ハットは東のハットラス岬に、ケープは南のケープ・ホーンに掛け、北のラブラドア半島から出掛ける、といった具合に。
ジョーは偉大なマジスター先生のクラスで絵画を学んでいた――彼の名声はご存じだろう。授業料はハイだが、内容はライト――そんなハイライトぶりが彼を有名にしたのだ。ディリアはローゼンスストック先生に師事していた――ご存知の通り、彼は鍵盤の荒っぽい指使いで評判である。
二人はお金の続く限りは本当に幸せだった。誰しもがそう――いや、皮肉はよそう。彼らの目標は実に明快ではっきりしていた。ジョーはとにかく早く、薄い頬ひげを生やし厚い財布を持った老紳士たちが、彼のアトリエで絵画を購入する名誉を得るために、激しく奪い合いをするほどの絵を描けるようになりたかった。ディリアは音楽業界で有名になり、それをものともしないほどになりたかった、オーケストラ席やボックス席に空席が見えたら、喉が痛いとか専用のダイニングルームでロブスターを食べるとか言って、ステージに上がるのを拒むためにである。
しかし私が思うに、何にもまして素晴らしいのは小さなアパートでの生活だ――一日の授業の後の情熱的で尽きることのない会話、心安らぐ夕食に、作りたてのささやかな朝食、語り合う将来の野望――重なり合い織物のようになっているが、そうでなければ取るに足らないもの――つまりは互いに助け合い励まし合うこと、そして――芸のない話で申し訳ないが――夜一一時に食べるオリーブとチーズたっぷりのサンドウィッチだ。
ところがしばらくすると、芸術は旗を巻いて失速した。それは時折起こる、たとえ転轍手が旗で合図をして止めなくても。何もかも出ていくばかりで、何も入ってこない、と世間の人が言うようにである。マジスター先生とローゼンストック先生に払う授業料が不足していた。芸術への愛があれば、人はどんな苦労も厭わない。だからディリアは、食べていくためにも自分が音楽のレッスンを開かなければならないと言った。
二、三日の間、彼女は生徒を募りに出歩いていた。ある晩、彼女は得意げに帰宅した。
「ジョー、あのね」と彼女は大喜びで呼びかけた。「生徒を受けもつことになったわ。それで、ええ、とっても愛らしい子なのよ。将軍――A.B.ピンクニー将軍のお嬢様――七一番通りに住んでいるの。すごく豪華なお屋敷でね、ジョー――あなたもあの玄関を見るべきよ! ビザンチン様式と言うんだったかしら、ああいうの。それに中といったら! ああ、ジョー、私今まであんなに素敵な場所見たことないわ。」
「私の生徒はそこのお嬢様のクレメンティーナよ。もうとても気に入っちゃった。上品な子でね――いつも白いお洋服を着ているの。この上なく可愛らしくて、気取らない物腰! まだ一八歳よ。週に三回レッスンをすることになっているの。ちょっと考えてみて、ジョー、一レッスンにつき五ドルよ。ちっとも苦労なんかじゃないわ、だってあともう二、三人生徒が増えたら、ローゼンストック先生との授業も再開できるんだもの。ほら、眉間のしわを伸ばして、さあ美味しい夕食をいただきましょう。」
「君はそれでいいだろうね、ディリー」ジョーはエンドウ豆の缶を、肉切りナイフと手斧でこじ開けようとしながら言った。「でも僕はどうすればいい?君にせっせとお金を稼がせておいて、自分は高尚な芸術の世界にうつつを抜かすなんて、できると思うかい?ベンヴェヌート・チェッリーニ(2)の骨に誓って、そんなことできない! 僕だって新聞を売るなり敷石を敷くなりすれば、一、二ドルぐらいは稼げるよ」
ディリアは近づいて、彼の首に腕を回した。
「ジョー、ばかなこと言わないで。あなたは自分の勉強を続けなくちゃ。私が音楽をやめて、別の仕事をしようというわけじゃないんだから。教えることも学びになるわ。だっていつも音楽と一緒にいるのよ。それに週に十五ドルも稼ぎがあれば、億万長者と同じくらい幸せに暮らせる。マジスター先生のもとを離れるなんて考えちゃダメ。」
「わかった。」ジョーはそう言いながら、野菜の盛られた縁が波形の青い皿に手を伸ばした。「だけど君がレッスンをするのは嫌だな。そんなの芸術じゃない。でも、そうしてくれる君は立派だし頼りになるよ、ありがとう。」
「芸術への愛があれば、人はどんな苦労も厭わないものよ」とディリアは言った。
「マジスター先生が、僕が公園で描いたスケッチの空を褒めてくれたんだ」とジョーは言った。「それでティンクルが、そのうちの二つをショーウィンドウに飾らせてくれるって。ちょうどいい間抜けな金持ちの目にでも入ったら、売ってやってもいいと思ってる」
「きっとそうなるわ」ディリアは優しく囁いた。「だから今はピンクニー将軍と仔牛のローストに感謝を捧げましょう。」
次の週は毎日、ララビー夫妻は早めの朝食をとった。ジョーはセントラルパークで朝の光のスケッチを描くことに没頭し、そしてディリアは彼に朝食をとらせ、支度を整えてやり、褒め、キスをして、七時に家から送り出した。芸術とは人を虜にする恋人である。だから彼は、大抵夜七時にならないと帰宅しなかった。
その週末、ディリアは少し誇らしげだが元気がなさそうに、得意顔で五ドル札を三枚、八×一〇(フィート)の居間の八×一〇(インチ)のテーブルの上に投げ置いた。
「たまにね」彼女は少し疲れた様子で言った。「クレメンティーナが私を困らせるの。あの子ちゃんと練習していないんじゃないかしら、しょっちゅう同じことを言わなきゃならないの。お洋服もいつも白ばかりだし、だんだん退屈になってきちゃった。でもね、ピンクニー将軍は最高に素敵なご老人よ! あなたも会えたらいいのに、ジョー。私がクレメンティーナと一緒にピアノに向かっていると、時折いらっしゃって――将軍は奥様に先立たれてしまっているんだけど――そこに立って、ヤギのような白いあご髭をなでながら、『一六分音符や三二分音符も弾けるようになりましたかな?』っていつも尋ねるのよ」
「あなたもあの客間の羽目板を見られたらいいのに! それとあのアストラカン織の仕切りカーテンも。それに、クレメンティーナはおかしな軽い咳をするの。見た目より丈夫ならいいんだけど。ああ、私ったら、ますます彼女のことが可愛く思えてきちゃった、とても優しくて育ちがいいの。ピンクニー将軍のご兄弟は、以前ボリビア公使だったそうよ。」
するとジョーは、モンテ・クリスト伯のような物々しい雰囲気で、十ドル札、五ドル札、二ドル札、そして一ドル札――全て正真正銘本物の紙幣――を取り出し、ディリアの稼ぎの横に置いた。
「例のオベリスクの水彩画を売ってやったんだ、ピオリアから来た男にね。」彼はたいそう得意気に言った。
「からかわないで」ディリアが言った――「まさかピオリアみたいな田舎からだなんて!」
「はるばる来たんだ。君も会えたらよかったのに、ディリー。太った男で、毛糸のマフラーを巻いて羽根の楊枝をくわえていたよ。ティンクルの店のショーウィンドウにあったその絵を見て、最初は風車だと思ったらしい。しかしいいカモでね、とにかくそれを買ってくれたんだ。他にも注文してくれたよ――ラッカワナの貨物駅の油絵さ――故郷に持ち帰るそうだ。音楽のレッスン! ああ、そっちの方がまだ芸術があるような気がするよ。」
「本当に嬉しいわ、あなたが絵を描き続けてくれて」ディリアは心からそう言った。「成功するに違いないもの。三三ドルよ! こんなにたくさんあるなんて初めてだわ! 今夜は牡蠣にしましょう。」
「フィレミニヨンのシャンピニヨン添えもね」とジョーが言った。「シルバーのオリーブフォークはどこだったかな?」
次の土曜日の晩、ジョーが先に家に着いた。彼は一八ドルを居間のテーブルに広げ、大量の黒い絵の具らしきものを手から洗い落とした。
三〇分後、ディリアが帰宅すると、彼女の右手は不格好に布と包帯で何重にも巻かれていた。
「これはどうしたんだ?」いつものやり取りのあと、ジョーは尋ねた。ディリアは笑ったが、あまり嬉しそうではなかった。
「クレメンティーナがね」ディリアは言った。「ウェルシュラビットをレッスンのあとに食べたいと言って聞かなかったの。そういう変なところがある子なのよ。午後五時にチーズトーストなんて。将軍もそこにいらっしゃったわ。ご自身でチーズを溶かす鍋を取りに行かれてね、ジョー、まるで召使いが家にいなかったみたいに。クレメンティーナが健康じゃないのは私も知っていたし、だから彼女、すごく神経質になってるみたい。ラビットをかける時たくさんこぼしちゃって、熱々のチーズが、私の手のあたりにかかったの。それはもう痛かったわ。それで可愛らしいあの子はとても申し訳なさそうにしてた! でもピンクニー将軍といったら!――ジョー、あのご老人、取り乱さんばかりだったのよ。慌てて階段を下りて誰かを――ボイラーの作業人か地下にいた人らしいけど――ドラッグストアに行かせて、オイルと傷口を縛るものを買ってきてくださったの。今はそれほど痛まないわ。」
「これは何?」ジョーはそう聞きながら優しく手を取り、包帯の下に隠れた白い糸くずを引っ張った。
「柔らかい物よ」ディリアは言った。「そこにオイルを染み込ませてあるの。あら、ジョー、他にもスケッチが売れたの?」彼女はテーブルの上のお金に気付いていた。
「売れたのかって?」ジョーは言った。「ピオリアの男に訊くといい。今日は例の貨物駅の絵を買ってくれたよ、それと彼自身まだ決めかねているようだけど、どうやら公園の絵をもう一枚とハドソン川の風景画も欲しいみたいだ。火傷したのは今日の午後何時だった?ディリー」
「五時だと思う」ディリーは悲しそうに言った。「アイロン――じゃなくてラビットが飛び出してきたのは、大体そのくらい。ピンクニー将軍の姿を見せたかったわ、ジョー、あの時ね――」
「ちょっとここに座って、ディリ―」とジョーは言った。彼はディリアをソファーに引き寄せると、隣に座り、彼女の肩に腕を回した。
「この二週間、何をしていたんだい?」彼は尋ねた。
ディリアは少しの間平静を装いながら、その目に愛情と強情を浮かべ、やがてどうのこうのとピンクニー将軍のことを呟いた。だがとうとう頭をうなだれると、真実と涙がこぼれた。
「生徒なんて一人も見つからなかったの。」彼女は告白した。「でもあなたに絵の授業を辞めさせるのは耐えられなかった。だから二四番通りの大きなクリーニング屋で、アイロンがけの仕事を始めたの。ピンクニー将軍とクレメンティーナの作り話、上手くできていたと思わない?クリーニング屋の女の子が、私の手に熱いアイロンを置いてしまったのが今日の午後のことで、家への帰り道ずっと、ウェルシュラビットの話を考えていたのよ。怒ってないわよね、ジョー?だってもし私がこの仕事をしていなかったら、ピオリアからの例の男に、スケッチを売れなかったかも知れないでしょ。」
「ピオリアから来たわけじゃないんだ」ジョーはおもむろに口を開いた。
「まあ、どこから来たかなんて大した問題じゃないわ。それにしても賢いのね、ジョー――ねえ、キスして、ジョー――でもどうして私がクレメンティーナにレッスンをしてないって気づいたの?」
「気づいてなかったよ」とジョーは言った。「今夜まではね。きっと気づきもしなかったさ、このくず綿とオイルを、今日の午後ボイラー室から、アイロンで手を火傷した上の階の女の子に届けに行ってもらわなかったら。僕はあのクリーニング屋でボイラーを焚いていたんだよ、この二週間ずっと。」
「じゃああなたも――」
「ピオリアからのお客もピンクニー将軍も、どちらも同じ芸術の創造物ってことさ――絵画でもなければ音楽でもないけどね」
それから二人は共に笑い、ジョーがこう続けた。
「芸術への愛があれば、人はどんな苦労も――」
だがディリアは彼の唇に手を当て、言葉を止めた。「違うわ」彼女は言った――「『愛があれば』でいいの。」