月曜 14:45~18:00
木曜 16:30~18:00
金曜 18:00〜21:30?
カーソン・チャルマーズの元に、広場に程近いアパートで、フィリップスが夕方分の郵便物を届けた。ありふれた手紙の他に同じ外国の消印を押されたものが二通あった。
一方には女性の写真が一枚。もう一方には長たらしい手紙が入っており、チャルマーズはそれに張り付くと長い時間読みふけった。手紙は別の女性からで、甘い蜜のかかった毒入りの棘が、嫌味でふさふさと飾られて写真の女性へと向けられていた。
チャルマーズは手紙を千片に裂くと、高価な絨毯を行ったり来たりして擦り減らしはじめた。密林生まれの動物は捕えられるとこうして歩きまわるが、人間も疑念という密林に囚われれば同じだ。
やがて不安が収まってきた。それは魔法の絨毯ではなかった。十六フィートの旅ならできたが、三千マイルを飛ばせる力は無かった。
フィリップスが現れた。入ってきたという表現はふさわしくない。いつでもランプの精のようにするりと現れるのだ。
「こちらで召し上がりますか、旦那様、それとも外で?」彼は尋ねた。
「ここで、」チャルマーズは言った、「三十分後に。」そして憂鬱そうに、一月の突風ががらんとした街を風の神(アイオロス)のトロンボーンに変えるのを聞いた。
「待ちたまえ、」彼は消えかかっているランプの精に言った。「帰りに広場の端を通ったら人が大勢並んでいたのだが。一人が何かに上って話していた。何の行列だろうか、あんな所に。」
「家の無い者たちです、旦那様、」フィリップスは言った。「箱に乗った男が彼らにその晩の宿を世話してやるのです。通りかかった人が話を聞いてお金を出しますから。それで賄えるだけの宿を借りてやるわけです。だから行列になるのですよ、早く来た者から寝床にありつけますので。」
「夕食が整うまでに、」チャルマーズは言った、「あそこから一人連れて来てくれ。一緒に食事をさせよう。」
「ど、ど、どの男を――」フィリップスはここに仕えだして初めてどもった。
「適当に選んでくれ、」チャルマーズは言った。「酔っ払いでは困るが――あとはある程度清潔であれば構わない。それだけだ。」
カーソン・チャルマーズがカリフの真似をするのは珍しいことだった。しかし、その夜は月並みな解毒剤では憂鬱が紛れないように思われたのだ。何か奔放で目に余ること、趣向を凝らしたアラビア的なことで、気分を晴らさなくてはならない。
三十分後、フィリップスはランプの奴隷よろしく仕事を終えていた。給仕たちも階下のレストランから一飛びで素晴らしいご馳走を運び上げた。テーブルは二人のために整えられ、桃色の蝋燭の灯に心地良く輝いていた。
やがてフィリップスが、枢機卿でも案内するように――いや、盗人でも引き立てるように――震える客人を伴ってふわりと現れた。宿を乞う列から引き出された男だ。
普通はこうした人間を難破船と呼ぶが、その例えを使うなら彼は火災に遭った遺棄船だ。しかも、まだちらちらと燃え残った火が漂流する船体を照らしている。彼の顔と手は洗われたばかり――無残に破られた習慣を惜しんで、フィリップスが儀式を譲らなかったのだ。蝋燭の光の中に立った男は、室内の上品な調度を台無しにする瑕だった。顔は病的に白く、目を覆うほど伸びた赤い髭はアイリッシュ・セッターの毛皮のようだ。フィリップスの櫛も歯が立たなかった薄茶の髪は、長くもつれて、いつもかぶっている帽子の形に固まっていた。目には絶望と狡猾な抵抗が満ち、虐待されて窮地に陥った野犬のようだ。みすぼらしい上着にはボタンが高く留められていたが、その上に四分の一インチ覗く付け襟が申し訳程度に品を補っていた。彼は気後れからは程遠い様子で、椅子から立ち上がるチャルマーズに対峙した。
「よろしければ、」主人は言った、「夕食をご一緒願えませんか。」
「私はプルーマーだ、」路上からの客人は荒く食いかかった。「私の立場になったらあんたもお食事相手の名前が気になるだろうが。」
「言おうとしたところです、」チャルマーズは急いで続けた、「チャルマーズといいます。どうぞ向かいに掛けて。」
羽毛(プルーム)を逆立てたプルーマーは、膝を曲げてフィリップスに椅子を入れさせた。以前にも給仕つきの食事をしたことがある様子だ。フィリップスがアンチョビーとオリーブを並べた。
「素晴らしい!」プルーマーは吠えた。「コース料理か、なるほど。承知いたしました、我が愉快なるバグダッドの王様。食後の爪楊枝の段まであなたのシェエラザードとなりましょう。本物の東洋が薫るカリフ様にお目にかかれますのは身を沈めてから初めてのこと。何と幸運な!私は列の四十三番目でございまして。順番を数え切ったまさにそのとき、有難いお使いが見えてご馳走にお招きいただいたというわけです。今晩寝床にありつくことは、次の大統領になるのと同じくらい難しかったでしょう。私の悲しい身の上をどう物語りましょう、アッラシード様――一皿ごとに一章、それとも葉巻とコーヒーをお供に全編通して語りましょうか?」
「こんなお話は目新しくもないようですね、」チャルマーズは微笑んで言った。
「預言者の顎鬚に誓って――その通り!」客人が答えた。「ニューヨークは安手のハ―ルーン・アッラシードでいっぱいです、バグダッドのノミと同じだけおります。食べ物を頭に突きつけられて物語を脅し取られること二十回。ニューヨークにただで物をよこす者がございましょうか!彼らは好奇も厚意も同じに綴るのです。大抵の人は十セントと中華丼、たまにはカリフに扮して極上のサーロインを振舞う者もございましょう。でもその誰もが立ちはだかって、自伝を脚注から補遺、未刊の断片まで絞り尽くすのです。おお、何をすべきか分かっておりますよ、おなじみの地下鉄バグダッドで食べ物が歩いてきたときには。アスファルトを三回額で打って、作り話の口上をひねり出すのです、食事のために。私はかのトミー・タッカーの子孫に違いありませんよ、ぐちゃぐちゃのおまんまのために歌わされた彼の。」
「身の上話が聞きたいわけではなく、」チャルマーズは言った。「率直に言うと、ふとした気まぐれに駆られて、誰か知らない人を呼んで一緒に食事をしたいと思っただけなのです。あなたを詮索して苦しめるようなことはしません。」
「そんな、まさか!」客人は叫んだ。熱心にスープをかき込みながら、「少しも気になりませんよ。私はありふれた赤い表紙の東洋雑誌、カリフ様が見えたらページを切られるさだめなのです。実は、我々宿待ち行列の仲間内ではこういったことに一種の協定価格がございまして。誰かしらいつでも立ち止まって聞きたがる者はございますからね、どうしてこんなに落ちぶれたのかって。サンドウィッチとビールなら酒のせいだとお話します。コンビーフとキャベツとコーヒーなら激怒する家主――六カ月の入院による失業の物語です。サーロインステーキと宿賃二十五セントならウォール街の悲劇で富を干されて次第に没落。こんなご馳走に行き当たったのは初めてでございまして。これにふさわしい物語は持ち合わせておりません。ですから、チャルマーズさん、あなたには本当のことをお話しましょう、もし聞いていただけるなら。作り話よりも信じがたいお話になりますよ。」
一時間後、アラビアの客人は満足げにくつろいでおり、その間にフィリップスがコーヒーと葉巻を出してテーブルをきれいにした。
「シェラード・プルーマーという名をお聞きになったことは?」含みのある笑みを浮かべて彼は尋ねた。
「覚えがあります、」チャルマーズは言った。「画家だと思いましたが、随分目立っていましたね、何年か前に。」
「五年前です、」客人は言った。「それからずぶずぶと沈んでまいりました、鉛の塊のように。私がシェラード・プルーマーなのです!最後に書いた肖像画は二千ドルで売れました。その後は無償で描こうと言ってもモデルが見つかりませんが。」
「何か問題でも?」チャルマーズは聞かずにはいられなかった。
「おかしなことなのです、」プルーマーは物憂げに答えた。しばらくはコルクのように気楽に浮いておりました。上流階級に流れ着くと、右から左から依頼が飛び込んできて。新聞は売れっ子画家と書き立てたものです。おかしなことが起きはじめたのは丁度その頃。絵を描き終えると見に来た人たちが、ひそひそと囁いては奇妙に顔を見合わせるのです。
じきに私にも分かりました。私には癖があって、肖像画の顔に本人の隠された本性を描き出してしまうのです。自分でもどうやっているのか分かりません――見たままを描くだけなのに――これには参りました。何人かのモデルからは恐ろしく怒って絵を突返される始末です。大変きれいで評判のよい社交界のご婦人の肖像を手掛けたこともございますが。描き上がると夫がそれを見ておかしな表情を浮かべたと思ったら、次の週には離婚訴訟を起こしてしまったのです。
こんなこともございました、有名な銀行家が私に描かせたときです。肖像画を仕事場で展示しておりましたら、彼の友人がそれを見に来ました。『なんと、』その人は言いました、『彼は本当にこんな顔をしているでしょうか?』私は忠実な肖像画であると答えました。『こんな目をしているとは今まで気がつかなかった、』そして言ったのです、『街へ行って銀行口座を変えます』と。その人は街へ向かいましたが、口座の中身はすでに消えておりました、銀行家の先生も。
やがて私は廃業に追い込まれました。誰も自分の密かな卑しさを暴いてほしくなどございません。人間は笑ったり顔を歪めたりして相手を欺けますが、絵は違います。次の注文を取ることができず、仕事を辞めるしかございませんでした。新聞でしばらく描き、それからリトグラフを描きましたが、そこでも同じ問題が起きました。写真を元に描いても写真には見えない特徴や表情がデッサンには表れてしまうのです、でもそれらはモデルに備わっているものでございましょう、きっと。お得意先、特にご婦人方から苦情が殺到しまして、それ以上続けることはできませんでした。だからくたびれた頭を酒というかみさんの胸に預けて安らぎを求めたのでございます。気付いたときには無料の宿を乞う列に並び、食料バザールで作り話をして施し物を頂くようになっておりました。真実の物語は退屈でございますか、御身には、おおカリフ様?ウォール街の悲劇に切り替えることもできますが、お望みとあらば、ですがそちらには涙が必要で、畏れながらそんなものは押し出しそうにございません、こんなに素晴らしい夕食の後では。」
「いえ、とんでもない、」チャルマーズは熱心に言った、「本当に引き込まれました。全ての肖像画が不愉快な特徴を暴いたのでしょうか、それともいくつかはあなたの変わった描き方という試練に耐えたものも?」
「いくつかは?ええ、」プルーマーは言った。「子どもは大体、女性も随分たくさん、男性もそれなりに。全ての人が悪人ではございませんので、もちろん。本人が大丈夫なら絵も大丈夫なのです。お話しした通り、うまく説明はできませんが、これは本当のことなのです。」
チャルマーズの机にはその日外国郵便で受け取った写真があった。十分後、彼はプルーマーに写真を元にパステルでスケッチをさせた。一時間たつと画家は立ち上がって疲れた様子で伸びをした。「できましたよ、」彼はあくびをしながら言った。「長くかかって申し訳ございませんでした。面白い仕事でしたよ。おお!しかしくたびれました。昨夜は寝床がございませんでしたのでね。そろそろお暇しなければならないようです、おお、イスラムの指導者様!」
チャルマーズは彼を戸口まで送ると、紙幣を何枚か握らせた。
「おお、頂戴します、」プルーマーは言った。「これも身を落とすということの内です。ありがとう。素晴らしいご馳走も。今夜は羽布団で眠ってバグダッドの夢を見させていただきますよ。起きたら夢だったなんてことになりませんように。ごきげんよう、超一流のカリフ様!」
再びチャルマーズはそわそわと絨毯の上を歩きまわった。しかし行き来したのは部屋の中でもパステルのスケッチが置かれた机からできるだけ離れたところだ。二度、三度、近づこうとしてみたが、できない。灰や金や茶といった色は見えたが、不安が壁となってどうしても近寄れないのだ。彼は腰を下ろすと気持を落ちつけようと努めた。やがてぱっと跳ね起きるとベルを鳴らしてフィリップスを呼んだ。
「若い画家がこのアパートにいたな、」彼は言った――「ライネマンさんと言ったか――どこの部屋だか知っているかね。」
「最上階の、表側です、旦那様、」フィリップスは言った。
「上に行ってちょっとここに来てもらえるよう頼んでくれ。」
ライネマンはすぐにやってきた。チャルマーズは自己紹介をした。
「ライネマンさん、」彼は言った、「小さいパステルのスケッチがあちらの机にあります。もしよろしければそれについて思うところを聞かせてもらえませんか、芸術的な価値について、また絵として。」
若い画家は机に近づくとスケッチを手に取った。チャルマーズは半ばよそを向いて、椅子の背に寄り掛かった。
「どう――で――しょうか。」彼はゆっくりと尋ねた。
「絵としては、」画家は言った、「いくら褒めても足りないくらいです。巨匠の作品ですよ――大胆かつ洗練されて真に迫る。ちょっと戸惑うほどです、こんなに見事なパステル画にはここ何年もお目にかかれませんでした。」
「顔は、君――題材の――人――については。」
「顔は、」ライネマンは言った、「神に仕える天使のようです。どなたかお尋ねしても――」
「妻です!」チャルマーズは叫ぶと、驚く画家に振り向きざまに飛びつき、彼の手を握りしめて背中をばしばしと叩いた。「今ヨーロッパに出掛けているのです。スケッチを持って行って、さあ、それを元に生涯最高の絵を仕上げてください、お代は私に任せて。」